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松井常松

2017.2.28

音楽雑誌「Player」編集長の北村和孝氏によるアルバム「Heart Rate」のライナーノーツ
『Heart Rate』における最新形・松井常松のエモーショナルな音世界

2014年『Reverie』、2015年の『Moments In Love』と、毎年クリスマスイブ付近に届けられてきた松井常松のアルバム。2016年は作品発表がなかったな…と残念がっていたら、新作『Heart Rate』が届いて実に嬉しいサプライズである。『Reverie』で彼が開いた新しい扉は、それまでのソロ作品やソロプロジェクトとはまったく異なるものだった。1曲1曲が意外なほどコンパクトにまとめられており、短編映画が目まぐるしくフラッシュバックしていくような快感がともなう。とりわけそのスピード感という意味で『Reverie』は特に印象的だった。楽器、非楽器、環境音やノイズ…あらゆる音を素材に全てが松井常松自身により繊細に紡ぎあげられており、その意味では過去に制作されたどの作品よりも純粋に彼そのものと言える音世界である。そして次作『Moments In Love』では、『Reverie』の繊細な音世界を踏襲しつつも“声”を素材としてよりフィーチャーした作風が顕著となった。楽曲によってはより肉体性を増したテイストも感じたり、とりわけ生楽器の質感に関しては一層活き活きとしたものになったよう聴こえるが、“声”が入ったことでまた違った受け取り方ができるようになったのかもしれない。

 『Heart Rate』は『Moments In Love』に引き続き、積極的に“声”を素材として扱っている。すべてが聴きとれる音だけでほぼ構成され、必要な音だけで編まれたトラックメイキングは健在だ。そして『Reverie』からの流れを汲みつつも、聴いていて胸がワクワクするような、気分が高揚してくる楽曲が多いと思った。これは『Reverie』以後徹底されているようだが、強いビートの楽曲も含まれつつ、「Moonstone」「Aquamarine」などではドライブするギターサウンドも登場するが耳に痛くはない。クリアで美しいサウンドなのだ。特に今作における鮮明な音像を大きめのボリュームでスピーカーで鳴らしてほしいし、あるいは良質なヘッドフォンで聴いてみてほしいと真摯に思う。

 『Reverie』以後、松井常松は極めて自由な楽曲制作に着手している。おそらくそこにほとんど制約はなくて、自身にとってのルーツミュージックのひとつであるニューウェイヴのエッセンス、そして新しい音楽性も加味しつつ、何処にもない松井常松ならではの音楽制作に純粋に取り組んできた。饒舌になりすぎないコンパクトな物語性を秘めつつ、『Reverie』でも『Moments In Love』でも“単刀直入的な”メロディアスな方法論にはこだわらず構築されている。その多くはベース、あるいはナイロン弦ギターで歌う姿は浮かばない楽曲だった。しかし『Heart Rate』では少し変化が感じ取れる。美しいエレクトリックピアノの旋律も胸に残る「Amethyst」、パーカッシブなリズムアレンジにシンセが絡む「Garnet」、アコースティックギターの弾んだフレーズが快い「Alexandrite」、ヒップホップテイストも魅力な「Sapphire」などは、女性の声をメインで扱い実にメロディアスなアプローチにしている。僕の中で『Heart Rate』は幻想的な「Grossular」で幕を閉じて、アンコールで「Ruby」が奏でられるような構成に思えるのだが、この「Ruby」もとてもメロディアスだ。この辺りの楽曲はライブで披露可能な歌もののかたちに近い気がしたのである。もっとも彼の中で意図的にそうしたアプローチをしたわけではなくて、結果的にこういう楽曲が生まれたというだけかもしれないが、メロディメーカーとしての才覚が自然と滲み出ているのも面白いところ。

 さらに先述の「Amethyst」なり、「Topaz」のジャジーなピアノのフレーズ、「Moonstone」のクリーントーンギターとピアノのアルペジオ、ナイロン弦ギターが大活躍の「Opal」など、楽器が奏でているフレーズやリフなどもインパクトたっぷりのものが多い。透明感あふれるシンセやエフェクト処理と相まって、松井常松ゆえのサウンドスケイプが具現化されているのである。いわゆるヒーリングミュージック、ニューエイジミュージックにカテゴライズされるような音楽ではなくて、エモーショナルで温もりを感じさせる肉体的で音楽である。その点はとりわけ『Heart Rate』で台頭しているポイントではないか。なお、本作のトラックダウンを行なう以前に、ジャケットデザインは完成していた。毎回アートワークでも楽しませてくれる松井常松だが、今作のビジュアルイメージとアルバムのトータリティは、意外と早い段階から彼の中でイメージされていたのかもしれない。お気づきの方は既に多いだろうが、『Heart Rate』の楽曲名はすべて石の名前で統一されている。それぞれの石のイメージを抱きながら聴くと、また違った楽曲の受け取り方ができるだろう。

 『Heart Rate』は『Reverie』から挑んできた音世界のさらなる境地と言えるアルバムであり、最新形・松井常松のエモーショナルな音世界が堪能できる。リピート状態で聴いても飽きない、ちょっぴり不思議でドラマティックな音世界を心ゆくまで味わっていただきたい。

(音楽雑誌「Player」編集長 北村和孝)

2017.2.28

音楽雑誌「Player」編集長の北村和孝氏によるアルバム「Heart Rate」のライナーノーツ
『Heart Rate』における最新形・松井常松のエモーショナルな音世界

2014年『Reverie』、2015年の『Moments In Love』と、毎年クリスマスイブ付近に届けられてきた松井常松のアルバム。2016年は作品発表がなかったな…と残念がっていたら、新作『Heart Rate』が届いて実に嬉しいサプライズである。『Reverie』で彼が開いた新しい扉は、それまでのソロ作品やソロプロジェクトとはまったく異なるものだった。1曲1曲が意外なほどコンパクトにまとめられており、短編映画が目まぐるしくフラッシュバックしていくような快感がともなう。とりわけそのスピード感という意味で『Reverie』は特に印象的だった。楽器、非楽器、環境音やノイズ…あらゆる音を素材に全てが松井常松自身により繊細に紡ぎあげられており、その意味では過去に制作されたどの作品よりも純粋に彼そのものと言える音世界である。そして次作『Moments In Love』では、『Reverie』の繊細な音世界を踏襲しつつも“声”を素材としてよりフィーチャーした作風が顕著となった。楽曲によってはより肉体性を増したテイストも感じたり、とりわけ生楽器の質感に関しては一層活き活きとしたものになったよう聴こえるが、“声”が入ったことでまた違った受け取り方ができるようになったのかもしれない。

 『Heart Rate』は『Moments In Love』に引き続き、積極的に“声”を素材として扱っている。すべてが聴きとれる音だけでほぼ構成され、必要な音だけで編まれたトラックメイキングは健在だ。そして『Reverie』からの流れを汲みつつも、聴いていて胸がワクワクするような、気分が高揚してくる楽曲が多いと思った。これは『Reverie』以後徹底されているようだが、強いビートの楽曲も含まれつつ、「Moonstone」「Aquamarine」などではドライブするギターサウンドも登場するが耳に痛くはない。クリアで美しいサウンドなのだ。特に今作における鮮明な音像を大きめのボリュームでスピーカーで鳴らしてほしいし、あるいは良質なヘッドフォンで聴いてみてほしいと真摯に思う。

 『Reverie』以後、松井常松は極めて自由な楽曲制作に着手している。おそらくそこにほとんど制約はなくて、自身にとってのルーツミュージックのひとつであるニューウェイヴのエッセンス、そして新しい音楽性も加味しつつ、何処にもない松井常松ならではの音楽制作に純粋に取り組んできた。饒舌になりすぎないコンパクトな物語性を秘めつつ、『Reverie』でも『Moments In Love』でも“単刀直入的な”メロディアスな方法論にはこだわらず構築されている。その多くはベース、あるいはナイロン弦ギターで歌う姿は浮かばない楽曲だった。しかし『Heart Rate』では少し変化が感じ取れる。美しいエレクトリックピアノの旋律も胸に残る「Amethyst」、パーカッシブなリズムアレンジにシンセが絡む「Garnet」、アコースティックギターの弾んだフレーズが快い「Alexandrite」、ヒップホップテイストも魅力な「Sapphire」などは、女性の声をメインで扱い実にメロディアスなアプローチにしている。僕の中で『Heart Rate』は幻想的な「Grossular」で幕を閉じて、アンコールで「Ruby」が奏でられるような構成に思えるのだが、この「Ruby」もとてもメロディアスだ。この辺りの楽曲はライブで披露可能な歌もののかたちに近い気がしたのである。もっとも彼の中で意図的にそうしたアプローチをしたわけではなくて、結果的にこういう楽曲が生まれたというだけかもしれないが、メロディメーカーとしての才覚が自然と滲み出ているのも面白いところ。

 さらに先述の「Amethyst」なり、「Topaz」のジャジーなピアノのフレーズ、「Moonstone」のクリーントーンギターとピアノのアルペジオ、ナイロン弦ギターが大活躍の「Opal」など、楽器が奏でているフレーズやリフなどもインパクトたっぷりのものが多い。透明感あふれるシンセやエフェクト処理と相まって、松井常松ゆえのサウンドスケイプが具現化されているのである。いわゆるヒーリングミュージック、ニューエイジミュージックにカテゴライズされるような音楽ではなくて、エモーショナルで温もりを感じさせる肉体的で音楽である。その点はとりわけ『Heart Rate』で台頭しているポイントではないか。なお、本作のトラックダウンを行なう以前に、ジャケットデザインは完成していた。毎回アートワークでも楽しませてくれる松井常松だが、今作のビジュアルイメージとアルバムのトータリティは、意外と早い段階から彼の中でイメージされていたのかもしれない。お気づきの方は既に多いだろうが、『Heart Rate』の楽曲名はすべて石の名前で統一されている。それぞれの石のイメージを抱きながら聴くと、また違った楽曲の受け取り方ができるだろう。

 『Heart Rate』は『Reverie』から挑んできた音世界のさらなる境地と言えるアルバムであり、最新形・松井常松のエモーショナルな音世界が堪能できる。リピート状態で聴いても飽きない、ちょっぴり不思議でドラマティックな音世界を心ゆくまで味わっていただきたい。

(音楽雑誌「Player」編集長 北村和孝)

松井常松

2017.2.28

音楽雑誌「Player」編集長の北村和孝氏によるアルバム「Heart Rate」のライナーノーツ
『Heart Rate』における最新形・松井常松のエモーショナルな音世界

2014年『Reverie』、2015年の『Moments In Love』と、毎年クリスマスイブ付近に届けられてきた松井常松のアルバム。2016年は作品発表がなかったな…と残念がっていたら、新作『Heart Rate』が届いて実に嬉しいサプライズである。『Reverie』で彼が開いた新しい扉は、それまでのソロ作品やソロプロジェクトとはまったく異なるものだった。1曲1曲が意外なほどコンパクトにまとめられており、短編映画が目まぐるしくフラッシュバックしていくような快感がともなう。とりわけそのスピード感という意味で『Reverie』は特に印象的だった。楽器、非楽器、環境音やノイズ…あらゆる音を素材に全てが松井常松自身により繊細に紡ぎあげられており、その意味では過去に制作されたどの作品よりも純粋に彼そのものと言える音世界である。そして次作『Moments In Love』では、『Reverie』の繊細な音世界を踏襲しつつも“声”を素材としてよりフィーチャーした作風が顕著となった。楽曲によってはより肉体性を増したテイストも感じたり、とりわけ生楽器の質感に関しては一層活き活きとしたものになったよう聴こえるが、“声”が入ったことでまた違った受け取り方ができるようになったのかもしれない。

 『Heart Rate』は『Moments In Love』に引き続き、積極的に“声”を素材として扱っている。すべてが聴きとれる音だけでほぼ構成され、必要な音だけで編まれたトラックメイキングは健在だ。そして『Reverie』からの流れを汲みつつも、聴いていて胸がワクワクするような、気分が高揚してくる楽曲が多いと思った。これは『Reverie』以後徹底されているようだが、強いビートの楽曲も含まれつつ、「Moonstone」「Aquamarine」などではドライブするギターサウンドも登場するが耳に痛くはない。クリアで美しいサウンドなのだ。特に今作における鮮明な音像を大きめのボリュームでスピーカーで鳴らしてほしいし、あるいは良質なヘッドフォンで聴いてみてほしいと真摯に思う。

 『Reverie』以後、松井常松は極めて自由な楽曲制作に着手している。おそらくそこにほとんど制約はなくて、自身にとってのルーツミュージックのひとつであるニューウェイヴのエッセンス、そして新しい音楽性も加味しつつ、何処にもない松井常松ならではの音楽制作に純粋に取り組んできた。饒舌になりすぎないコンパクトな物語性を秘めつつ、『Reverie』でも『Moments In Love』でも“単刀直入的な”メロディアスな方法論にはこだわらず構築されている。その多くはベース、あるいはナイロン弦ギターで歌う姿は浮かばない楽曲だった。しかし『Heart Rate』では少し変化が感じ取れる。美しいエレクトリックピアノの旋律も胸に残る「Amethyst」、パーカッシブなリズムアレンジにシンセが絡む「Garnet」、アコースティックギターの弾んだフレーズが快い「Alexandrite」、ヒップホップテイストも魅力な「Sapphire」などは、女性の声をメインで扱い実にメロディアスなアプローチにしている。僕の中で『Heart Rate』は幻想的な「Grossular」で幕を閉じて、アンコールで「Ruby」が奏でられるような構成に思えるのだが、この「Ruby」もとてもメロディアスだ。この辺りの楽曲はライブで披露可能な歌もののかたちに近い気がしたのである。もっとも彼の中で意図的にそうしたアプローチをしたわけではなくて、結果的にこういう楽曲が生まれたというだけかもしれないが、メロディメーカーとしての才覚が自然と滲み出ているのも面白いところ。

 さらに先述の「Amethyst」なり、「Topaz」のジャジーなピアノのフレーズ、「Moonstone」のクリーントーンギターとピアノのアルペジオ、ナイロン弦ギターが大活躍の「Opal」など、楽器が奏でているフレーズやリフなどもインパクトたっぷりのものが多い。透明感あふれるシンセやエフェクト処理と相まって、松井常松ゆえのサウンドスケイプが具現化されているのである。いわゆるヒーリングミュージック、ニューエイジミュージックにカテゴライズされるような音楽ではなくて、エモーショナルで温もりを感じさせる肉体的で音楽である。その点はとりわけ『Heart Rate』で台頭しているポイントではないか。なお、本作のトラックダウンを行なう以前に、ジャケットデザインは完成していた。毎回アートワークでも楽しませてくれる松井常松だが、今作のビジュアルイメージとアルバムのトータリティは、意外と早い段階から彼の中でイメージされていたのかもしれない。お気づきの方は既に多いだろうが、『Heart Rate』の楽曲名はすべて石の名前で統一されている。それぞれの石のイメージを抱きながら聴くと、また違った楽曲の受け取り方ができるだろう。

 『Heart Rate』は『Reverie』から挑んできた音世界のさらなる境地と言えるアルバムであり、最新形・松井常松のエモーショナルな音世界が堪能できる。リピート状態で聴いても飽きない、ちょっぴり不思議でドラマティックな音世界を心ゆくまで味わっていただきたい。

(音楽雑誌「Player」編集長 北村和孝)

2017.2.28

音楽雑誌「Player」編集長の北村和孝氏によるアルバム「Heart Rate」のライナーノーツ
『Heart Rate』における最新形・松井常松のエモーショナルな音世界

2014年『Reverie』、2015年の『Moments In Love』と、毎年クリスマスイブ付近に届けられてきた松井常松のアルバム。2016年は作品発表がなかったな…と残念がっていたら、新作『Heart Rate』が届いて実に嬉しいサプライズである。『Reverie』で彼が開いた新しい扉は、それまでのソロ作品やソロプロジェクトとはまったく異なるものだった。1曲1曲が意外なほどコンパクトにまとめられており、短編映画が目まぐるしくフラッシュバックしていくような快感がともなう。とりわけそのスピード感という意味で『Reverie』は特に印象的だった。楽器、非楽器、環境音やノイズ…あらゆる音を素材に全てが松井常松自身により繊細に紡ぎあげられており、その意味では過去に制作されたどの作品よりも純粋に彼そのものと言える音世界である。そして次作『Moments In Love』では、『Reverie』の繊細な音世界を踏襲しつつも“声”を素材としてよりフィーチャーした作風が顕著となった。楽曲によってはより肉体性を増したテイストも感じたり、とりわけ生楽器の質感に関しては一層活き活きとしたものになったよう聴こえるが、“声”が入ったことでまた違った受け取り方ができるようになったのかもしれない。

 『Heart Rate』は『Moments In Love』に引き続き、積極的に“声”を素材として扱っている。すべてが聴きとれる音だけでほぼ構成され、必要な音だけで編まれたトラックメイキングは健在だ。そして『Reverie』からの流れを汲みつつも、聴いていて胸がワクワクするような、気分が高揚してくる楽曲が多いと思った。これは『Reverie』以後徹底されているようだが、強いビートの楽曲も含まれつつ、「Moonstone」「Aquamarine」などではドライブするギターサウンドも登場するが耳に痛くはない。クリアで美しいサウンドなのだ。特に今作における鮮明な音像を大きめのボリュームでスピーカーで鳴らしてほしいし、あるいは良質なヘッドフォンで聴いてみてほしいと真摯に思う。

 『Reverie』以後、松井常松は極めて自由な楽曲制作に着手している。おそらくそこにほとんど制約はなくて、自身にとってのルーツミュージックのひとつであるニューウェイヴのエッセンス、そして新しい音楽性も加味しつつ、何処にもない松井常松ならではの音楽制作に純粋に取り組んできた。饒舌になりすぎないコンパクトな物語性を秘めつつ、『Reverie』でも『Moments In Love』でも“単刀直入的な”メロディアスな方法論にはこだわらず構築されている。その多くはベース、あるいはナイロン弦ギターで歌う姿は浮かばない楽曲だった。しかし『Heart Rate』では少し変化が感じ取れる。美しいエレクトリックピアノの旋律も胸に残る「Amethyst」、パーカッシブなリズムアレンジにシンセが絡む「Garnet」、アコースティックギターの弾んだフレーズが快い「Alexandrite」、ヒップホップテイストも魅力な「Sapphire」などは、女性の声をメインで扱い実にメロディアスなアプローチにしている。僕の中で『Heart Rate』は幻想的な「Grossular」で幕を閉じて、アンコールで「Ruby」が奏でられるような構成に思えるのだが、この「Ruby」もとてもメロディアスだ。この辺りの楽曲はライブで披露可能な歌もののかたちに近い気がしたのである。もっとも彼の中で意図的にそうしたアプローチをしたわけではなくて、結果的にこういう楽曲が生まれたというだけかもしれないが、メロディメーカーとしての才覚が自然と滲み出ているのも面白いところ。

 さらに先述の「Amethyst」なり、「Topaz」のジャジーなピアノのフレーズ、「Moonstone」のクリーントーンギターとピアノのアルペジオ、ナイロン弦ギターが大活躍の「Opal」など、楽器が奏でているフレーズやリフなどもインパクトたっぷりのものが多い。透明感あふれるシンセやエフェクト処理と相まって、松井常松ゆえのサウンドスケイプが具現化されているのである。いわゆるヒーリングミュージック、ニューエイジミュージックにカテゴライズされるような音楽ではなくて、エモーショナルで温もりを感じさせる肉体的で音楽である。その点はとりわけ『Heart Rate』で台頭しているポイントではないか。なお、本作のトラックダウンを行なう以前に、ジャケットデザインは完成していた。毎回アートワークでも楽しませてくれる松井常松だが、今作のビジュアルイメージとアルバムのトータリティは、意外と早い段階から彼の中でイメージされていたのかもしれない。お気づきの方は既に多いだろうが、『Heart Rate』の楽曲名はすべて石の名前で統一されている。それぞれの石のイメージを抱きながら聴くと、また違った楽曲の受け取り方ができるだろう。

 『Heart Rate』は『Reverie』から挑んできた音世界のさらなる境地と言えるアルバムであり、最新形・松井常松のエモーショナルな音世界が堪能できる。リピート状態で聴いても飽きない、ちょっぴり不思議でドラマティックな音世界を心ゆくまで味わっていただきたい。

(音楽雑誌「Player」編集長 北村和孝)